森崎ウィンさんインタビュー
公開日:2019年12月10日コラム
人間の適応能力ってすごい!- One's ability to adapt is boundless! -
ミャンマーに生まれて10歳で来日、演技に音楽にと、マルチに活躍中の森崎ウィンさん。日本・ミャンマー両国の芸能界で活動しながら、2018年にはスティーブン・スピルバーグ監督作品『レディ・プレイヤー1』でハリウッドデビューも果たしました。そんなウィンさんはミャンマー語、英語、日本語を操るトライリンガル。語学をめぐる体験をお聞きしました。
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森崎ウィン(もりさき・うぃん)
[ Profile ]
1990年ミャンマーまれ。10歳で来日、中学2年のときにスカウトされ高校2年で俳優デビュー。2008年よりダンスボーカルユニット・PrizmaX(現、PRIZMAX)のメインボーカルとして活躍。2014年『シェリー』で映画初主演。2018年公開の『レディ・プレイヤー1』でハリウッドデビューを果たす。2019年10月公開の映画『蜜蜂と遠雷』ではピアニスト役を好演、高い評価を得た。
祖母の英語教室で育ったミャンマー時代
僕はミャンマーで生まれて10歳まで過ごしました。両親はすでに日本に来て仕事をしていましたから、母方の祖母が僕の育ての親というか、母親代わりで、僕をひとり息子のようにかわいがってくれました。
祖母は曲がったことや筋が通っていないことに対しては厳しい人でしたが、それ以外は何でも与えてくれました。決して裕福ではありませんでしたが、日本でいうところの「普通の家庭」で、何不自由なく育ったと思います。
祖母は家で英語教室を開いていました。生徒にはパイロットを目指して勉強中の人や大学生などいろいろな人がいて、毎朝、英語の授業で一日が始まるという生活でした。そういう環境で育ったので、小さい時からいつも英語が耳に入ってきて、自然と体になじんでいきました。
祖母は音楽が大好きな人。教室では昔の童謡を使ったり、マドンナの『ライク・ア・ヴァージン』を振付きで歌ったり、音楽を通じてユーモアたっぷりに英語を教えていました。
今も日本とミャンマーを行き来する
10歳違いの弟が日本で生まれたタイミングで僕も日本に来て家族と合流。その後、1年もすると言葉の問題で不自由することなく生活できるようになっていました。
日本に来たばかりの頃は少しいじめられもしましたが、すぐに仲よくなれました。クラスの友達から最初に教わったのが「モーニング娘。」の『LOVEマシーン』。「ニッポンのミライは♪Wow♪Wow♪」って、言葉の意味も全然わからないまま、一緒に歌って踊って楽しみました。音楽の力ってすごいですよね。
日本でも両親との会話はミャンマー語だったので、母国語を忘れることはありませんでした。僕は今、ミャンマーの観光大使や芸能活動をしていて、日本とミャンマーを行ったり来たりしています。「言語ってやっぱり大切だな」と思わされる場面がしばしばあります。同じ通訳さんでも、日本とミャンマー両方に住んだ経験のある人だと意思疎通がとてもうまくいくことが多い。正しいコミュニケーションには、言葉だけでなく、文化や習慣の理解が大事なのだと勉強になります。
スピルバーグ監督の映画でハリウッドデビュー!
『レディ・プレイヤー1』の撮影は2016年。現場での英語コミュニケーションは、めちゃくちゃ困りましたね。僕はイギリス英語が理解できなかったですし、アメリカ英語も、「もう少しゆっくりしゃべって」という感じで、最初は本当にしんどかったです。
3週間ほどのカメラテストの間は通訳さんがついてくれたのですが、本番撮影が始まる段階で「もうウィンは通訳はいらないでしょ。一人で大丈夫よね!」と宣告されてしまって。「そんな!」と言いたかったのですが、ハリウッドにはよほどの大物俳優でない限りみんな単身で来ているので、そうも言えず(笑)。
けれど、撮影の4か月間でだいぶ英語が磨かれていったと思います。すべて自分でやらなければいけない状況で、「もう、一人で飛び込んでいくしかない!」という環境がよかったのかもしれません。人間の適応能力ってすごいなと、改めて感じました。
音楽教室に通って役作り
2019年10月に公開された映画『蜜蜂と遠雷』では、ピアニストの役を演じました。僕が演じたのは、小さい頃から周囲の期待を背負いながらも、プレッシャーをはねのけて結果を残していく天才、マサル。
僕自身、曲を作るうえでキーボードを使うことはありますが、簡単なコードを押さえるくらい。ピアノやクラシック音楽に本格的に接するのは、初めてでした。
役が決まってすぐにヤマハの教室に通ったんです。「ピアノを習うとき、最初にどんなことをやるんだろう?」それを知りたくて。マンツーマンで、いろいろとていねいに教えていただきました。もちろん演奏の吹き替えはプロのピアニストがやるのですが、どんなレッスンをしているのかを知ることで、「ピアニストは皆こういう壁を乗り越えてきた人たちなのだ」ということがわかり、マサルを演じるうえでのバックボーンになりました。
母への感謝
日本には子どもができる習い事がたくさんあって、すごく恵まれた環境だなと思います。なかでも言語は、いちばん身になる習い事ですよね。だから、お子さんを英語教室に通わせているご両親はすばらしいギフトを与えていると思います。
僕は日本に来た当時、どちらかというと「母に無理やり連れてこられた」という感覚だったのです。ミャンマーで祖母と何不自由なく暮らしていたし、友達もいる。やっぱり子どもは自分が慣れた環境にずっといたいですよね。でも、あの時、無理やりでも日本に来たから今の僕がある。だから、僕の世界を広げてくれた母親には感謝しています。実際に本人を目の前にすると、照れくさくてなかなか言えませんが(笑)。
だから親御さんたちも、今はたとえお子さんに多少「イヤだ!」と跳ね返されていたとしても、10年後、20年後、将来的には絶対に感謝されるはずですから、自信をもって、どんどん子どもたちに英語を学ばせてほしいと思います。
今、僕には2つの目標があります。俳優として、5年以内にハリウッド映画出演をもう1本決めること。そして、歌手としてアジアツアーを実現すること。この2つを「有言実行」で叶えるべく頑張ります!
Message
英語が身につくと世界が広がります。と言っても、今はまだピンとこないと思うけれど、単純に、英語ができたら学校の友達に自慢できるし、カッコイイよね!目指せ「カッコイイ!」。そのためには歌ったり踊ったりして、好きなことをしながら英語で覚えるのもいいと思います。リラックスして、楽しく英語に親しんでくださいね。