脳のしくみが教えてくれる「楽しい」は英語学習の秘訣
公開日:2023年2月1日コラム
「好きこそ物の上手なれ」ということわざ通り、楽しいこと・好きなことにはおのずと熱中でき、上達が早いものです。英語も楽しんでやるとよく覚えられるといわれますが、それはなぜなのでしょう。脳科学から見た好奇心と記憶の関係や知的好奇心を育み、記憶を定着させる方法について、東北大学の瀧先生にうかがいました。
東北大学 瀧 靖之(たき・やすゆき)さん
医師 医学博士
東北大学大学院医学系研究科博士課程卒業
東北大学スマート・エイジング学際重点
研究センター 副センター長
加齢医学研究所 教授
子どものころの熱中体験が将来を広げる力に
興味を抱いて好きになり、面白いと思ったことはどんどん上達する。一方で、嫌々やったことはなかなか身につかない。そんな経験がある方も多いのではないでしょうか。
何かを「好き」と感じる気持ちは、どこから生まれるのでしょうか。ズバリ!それは知的好奇心です。何かに興味を抱き、もっと知りたい、もっと深く学びたいと思う気持ちは子どもの将来を広げていくために欠かせないのはもちろん、老若男女問わず私たちが生きていく上で重要な力です。
瀧先生によれば、「感情」と「記憶」には深い関係があるそうです。「脳の仕組みでいうと、偏桃体と海馬という領域が隣接し、密接に連絡しています。『好き』『楽しい』という感情が記憶を司る海馬を活性化させ、記憶が定着しやすくなるのです。ですから、好奇心を持って楽しく取り組むことで知識を習得しやすくなります」
脳の発達からすると、さまざまなことに興味を持ち始めるのが2~3歳。自分と他人の感情が違うことを理解し、外の世界に意識が向いていく年齢です。「なぜ?」「どうして?」と繰り返し質問をする、いわゆる"なぜなぜ期"の始まりです。「この時期から、いかに知的好奇心を伸ばしていくかが大切です。興味を持たせるポイントは、心理学で"単純接触効果"と呼ばれるもの。簡単にいうと、ある物や人、場面に何度も触れることで、その対象に興味や親しみ、好意がわくというものです」
そのためにも子どもにはできるだけ幅広く、いろいろなものに触れさせたいもの。先生はそのひとつとして、アウトドア体験をすすめます。「たとえば図鑑や絵本などを親子で一緒に見て、子どもが興味を持ったものを見たり触れられたりする場所に出かける。そうやって対象への親しみを高めるのが"単純接触効果"であり、知的好奇心につながるといわれています」
一方で、「うちの子は恐竜にしか興味がなくて」などといった親御さんの悩みを耳にすることも多いそう。しかし、それはすばらしいことだと先生は考えています。「子どものころに『知ることが楽しい!』という熱中体験をすることは、とても大切なことなのです。何かにハマることができる人は、別のことにも没頭できるからです」
親子で一緒に楽しく学ぶとより習得できる!?
もちろん、感情と記憶の関係は英語学習にも当てはまります。子どもの英語教育でもっとも大切なのは、親しみを持つこと、面白い! 楽しい! と思わせることだと先生は語ります。「英語=勉強になった瞬間、拒絶反応を起こす子どもは少なくありません。英語は他の国の人と会話ができる楽しいツールだということを早いうちに教えてあげることは重要です」
親が子どもと一緒に英会話を始めるのも、いい方法です。「私たちの脳は可塑性といって、環境に適応して変化する力を持っています。この可塑性は、脳が発達のピークを迎えた後はゆっくり下がっていきます。しかし、何歳から何を始めても習得はできます。あるレベルに達するための時間が少し長くかかるというだけなのです」
また、親子で始めることは子どもにとっても大きなメリットがあります。その際に大切なのは、親自身が楽しんで取り組むことです。「私たちは、模倣によってさまざまな能力を獲得するといわれています。子どもの新しい能力の獲得は、基本的には真似です。そして、動作だけでなく、心的状態、感情まで伝わり、真似・模倣することがわかっています。ですから、大人が楽しんでいる姿を見せると子どもも楽しくやるんですね」
実はグループレッスンの英語教室や学習塾もこの"模倣"の場なのだとか。「みんなが楽しそうにやっている、みんなが一生懸命やっている。これが非常に大事なことです。感情も模倣し、グループ内で広がることによって、周りの人と楽しい学習を経験できます。そして、楽しい経験が記憶に強く残るため、学習へのモチベーション向上の効果と記憶の定着が期待できます」
記憶に残すための"繰り返し"のコツ
では、習得した力をより記憶に残すには、どうすればいいのでしょうか。ポイントは、繰り返しにあります。「習慣化することですね。最初は1日3分から始めて1週間。次は5分やるといった感じで、スモールステップで習慣を作っていくといいでしょう。個人差も大きいのですが、習慣化には2カ月ほどかかるとされています。そこまで続けていくと、止める方が難しくなります。また、すでに完璧に習慣化されているものとセットにすることも有効です。たとえば、歯を磨いた後に3分間英会話をするなどです」

私たちは普段、意識してさまざまなことを行っていますが、そうやって繰り返すことで無意識のうちにできるようになっていることがあります。「 たとえば英語を始めたときには脳の多くの領域が活動しますが、それがだんだん効率化され、比較的少数の脳の領域の機能だけで、できるようになるといわれています。それが無意識にできる状態であり、いわば省エネ化されているわけです」
さらに、英語の習得はその後第三言語を学ぶ際の足がかりにも。一種のコツをつかむことで習得に必要なエネルギーは少なくて済むといいます。「 英語は生きていく上で力になり、学んで悪いことはひとつもありません。私自身も、英語を含め、人生のいろいろなことを楽しんで子どもに見せ、一緒に行うことを常に心がけています」