親子で成長していく「見守る子育て」~心の健康を保ち幸せであるために~
公開日:2024年1月15日コラム
我が子を思うあまり、子育てにがんばりすぎていませんか。
健康には「腹八分目」が良いとされるように、親が子どもに接するときも「できないことはできない」といった心の持ちようが大切です。親も心の健康を保ち幸せであるための習い事の活用方法、自ら伸びる子に育てる"見守る子育て"とは、教育家・見守る子育て研究所所長の小川大介先生に伺いました。
小川大介(おがわ・だいすけ)さん
教育家・見守る子育て研究所所長。京都大学法学部卒業。コーチング主体の中学受験専門個別指導塾を創設し、子ども個々の才能タイプに基づく独自の成績向上ノウハウを確立する。塾運営を後進に譲った後は、「"見守る子育て"を日本の常識にする」をミッションに掲げ、人の隠れた才能を見つけ引き出す技術体系「見守る子育て」の普及に務めている。『頭のいい子の親がやっている「見守る」子育て』(KADOKAWA)など著書・監修多数。
親は見守る子育ての調整役
思い描いていた子育てが予定どおりに進まないとき、つい感情的になって、子どもに強い言葉で言い過ぎてしまう親は少なくないでしょう。
子どもにはいろいろな特性や才能があります。大人は子どものあるがままの姿を一度受け止めて、関わり方の工夫をしてみる必要があります。「 教えてあげるのは必要としつつも、子どもがやってみよう、やれそうな気がしていると思っていることについては、本人にゆだねていくというのが基本の関係性です」と小川先生。
「たとえば英語学習について、子どもに『英語ができるようになろうね』と言ってもうまくいきません。そこにはワクワク感がないからです。英語の歌詞がわかったとか、大好きなアニメのシーンを英語で聞いたときに『今のって、こんな意味でしょ』と当たったとか、自分の体験、行動や言動の中に英語との接点ができたときに面白いと思うわけで、英語を使って楽しく過ごす体験を提供してあげることが重要です」
小さな成功体験を重ねて、その都度、褒めてみましょう。子どもとの関わり方について、さらに小川先生はこうも述べています。
「たとえば自転車に初めて乗るときのように、いきなり自力で走りなさいではなく、ある程度走れる感じがつかめてきたら徐々に手を放して、自分でやってごらん、と送り出す感覚を大事にすることがポイントです。学習も自ら学びたいという意欲が高まっていくような関わり方とともに、スケジュールや期限などとどう折り合いをつけていくか、親には調整役のような立ち位置も求められているのです。まずは黙って3分間、穏やかな眼差しで子どもを見る訓練をしてみてください。すると、普段いかに子どもを見ていないかに気づくと思います。この子はどんなタイプなんだろう、何が好きでどんな力がこの言動の裏にあるのだろうと、パートナーや家族と話し合ってみてください。そして、周りの大人の意見も聞きながら視野を広げてみましょう。子どものタイプ(好きなこと・力)を知ることで、好きなことは楽しいからどんどん自ら伸びていくといった関わり方ができるようになります」
見守る子育てを始めるための親の心得3ステップ
STEP 1ありのままを受け止め、個性を理解する
子どもの個性を理解するには、あるがままの姿を受け止めることが大切です。そのうえで、その子の本来の力、特性、才能を見つけだしていきましょう。
STEP 23分間、じっと子どもを見つめてみる
3分間、黙って見ることに集中してみると、こんなときに気持ちが動く、こういう情報に関心があると、子どもの特徴にあらためて気づくことができます。
STEP 3子どもの特性について考え、関わり方の距離感をつかむ
この子の言動はどういった特性や才能から来ているのだろうと考えてみましょう。本人理解を深め、関わり方の距離感をつかむことができます。
ひとりで抱え込まず、周りの環境も活用してみましょう
― 心の健康のために親も自分を優先する
でも時には、我が子の特性を理解しきれずに苦しくなったり、完璧な親になろうとして疲れ切ったりしてしまうこともあるでしょう。小川先生は、子どものことにがんばるよりも、まず自分を優先してほしいと言います。
「まずは今の自分を認めて受け入れてみましょう。そして、パートナーや家族の間で、お互いに『ありがとう』と感謝を伝えあうことを忘れないようにしましょう。常に『腹八分目』を意識して余裕を持つようにし、ときには、子どもから逃げてもいいです。たとえば5分間、トイレに逃げ込み、親から素の自分に戻って落ち着きを取り戻してみましょう」
どの子も伸びる方向とスピードが違います。見守る子育てで、子どものタイプを知り、自分の子どもに必要な調整をそっとしてあげられれば良いのです。親も心の健康を保つために、できる範囲で大丈夫です。
「『できないことはできない』と子どもに伝えて、少し逃げても問題ありません。子どもにポジティブな言葉を渡せるよう、心の余裕を持つことが大切です。ひとりで抱えずに周りの環境も活用できるといいですね」
習い事での体験をさらに価値のあるものに
― 子どもは3つの場所で育つ「家庭」「学校」「地域(習い事)」
核家族化や近所付き合いの減少で、子育ての問題を家庭だけで抱え込んでしまうケースは少なくありません。そんな時代だからこそ、「習い事の場」にもできることがあるのではないでしょうか。小川先生は自身の教育観をふまえて話してくれました。
「子どもは3つの場所で育つと思っています。家庭、学校(公教育)、そして地域です。地域には人の多様性があります。習い事も地域教育であり、どんな習い事を選択するかによって、先生にもさまざまなタイプがいます。そこで出会う、いろいろな大人とのふれあいによって得られるものには価値があります。親にとっても、子どもを見守るための視野が広がると思います」
自分自身の視野だけに固執しないことは、子どもの主体性を大事にするためのコツだと先生は言います。そして、他の人の「目」が多様な角度で子どもを見てくれると、親の心の安心材料にもなります。
「子どもの特性に関する知識が高まると、『自ら伸びる子』に育つための手助けがしやすくなります。親自身の理解力を上げるとともに、信頼できる大人のネットワークをつくることもポイントです。子どもを見てくれる『目』を増やすことによって気づきの幅が広がり、親だけでは足りないところを補ってくれます。かつての大家族主義の家庭における子育ての力というのは、そういうことだったと思います」
小川先生は、習い事にも「目」があるとして、こうアドバイスしてくれました。
「英語教室であれば単なるスキル習得のためだけでなく、音やリズムを使うなど、子どもの全身の体験を受けとめてくれる場となっているのではないでしょうか。習い事は、先生とのコミュニケーションによって、親の抱えているものの一部を肩代わりしてくれる場にもなる。パートナーや家族、友人、そこに教室の先生たちも我が子を一緒に見てくれる『目』として頼れば、習い事での体験はさらに価値あるものになるでしょう。もっと習い事の場と(子育てを)分かち合えればいいのではと思います」
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